一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
わざわざ住み込みのリゾートバイトを選んだのは、環境を変える為でもあった。


一か月ほど離れて、慣れない環境で忙しく働いていれば、きっと余計な事を考えないですむ。


運が良く、インターンシップに行った会社から夏休み前に内定も貰っていた。
家族を説得するのは少し時間がかかったけれど、「いつもそんなに主張しないアオイが、そんなに言うのなら」と、最終的には納得した。

いつも聞き分けの良いお兄ちゃんをやっていたのが、役に立った。


それなのに、そのバイトに向かう途中で2人に出くわすなんて……皮肉過ぎる。


「すごい偶然ですね!
アオイさんも一緒にランチしませんか?
茉莉香ちゃんから、よくアオイさんの話を聞いていて、ずっと会ってみたかったんですよ。
自慢の幼馴染みだって、いつも言っていて。
本当にかっこいいですね。
俺よりも背、高いですよね。良いなぁ。
あれ、もしかしてこれからどこか行くんですか?
大きい荷物ですね」


人畜無害な笑顔を俺に向けて、ペラペラペラペラしゃべる男。


―――よく、ずっと、いつも。


茉莉香の彼氏面(かれしづら)をして、無神経に容赦なく土足で踏み荒らす。

実際に彼氏だから彼氏面(・・・)ではないけれど、その一つ一つの言葉に酷く腹が立った。


ただ一言、「今度、また機会をつくりましょう」と言うだけだって、良かった。

この男は、きっと笑顔で「じゃあ仕方ないですね、残念です。絶対、機会つくりましょうね」と言うだろう。


でも、そうなったところで会う機会が延びるだけだ。

延ばせば延ばすほど、今より親密になった二人を見せつけられるだけだ。
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