一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
茉莉香が子犬みたいに眉を下げて、俺を見上げる。

理由をつけてしばらく会っていなかった茉莉香は、今年も夏バテしたのか少し瘦せていた。
高校の時からやってみたい、と言っていた(ゆる)いパーマが、毛先にかかっていた。
ピンクブラウンの髪は()に当たるとストロベリーチョコを思わせ、茉莉香の甘い雰囲気によく合っていた。

出来ることなら、自分が一番に見たかった。

いつも、一番に見てきたのに……。



「引き留めてごめんね、アオイ。
今日から一か月、行っちゃうんだよね。
そんなに離れた事なんて今までなかったから、寂しくなる」


本当に、寂しくなってくれる?

……その言葉を、(かて)にしよう。

俺の寂しさとは、まったく違うものだってわかっているけれど。



腹を(くく)って、口を開いた。

「早めに家を出たから、ランチぐらいなら大丈夫。
茉莉香の彼氏に会えて、俺も良かった」


吐きそうだった。

思ってもいない事を口に出すのにも、作り笑顔にも慣れていたけれど。


自分なりのせめてもの牽制(けんせい)として、「うちの茉莉香がお世話になってます」と付け加えて言った。

疑う事を知らない様なこの男には、きっと何も届かなかっただろうけれど。
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