一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんはすぐに来て、目の前にお盆を置いた。
黒塗りの半月型のお盆には、お味噌汁の注がれた、朱く塗られたお椀が載っている。

「………食べていいんですか?」

クロエさんがこくりと頷く。

「………作ってくれたんですか?」

さっきと同じように頷く。

それがイエスを意味しているのはわかるけれど、いいのかな、と戸惑う。
なにからなにまでしてもらっている。
それに、目の前に無言で座られていると少し食べづらい。

そう思いながら一口含むと、口のなかには温かくて優しい味がじわじわと広がっていった。

「美味しい……」

自然と口に出ていた。
それを聞いたクロエさんは少しだけ表情を緩めて、口を開いた。

「なら、よかった」

「さっきの赤と白って、味噌の種類のことだったんですね」

「言わなかった?」

「……言ってないです」

淡く、甘い白味噌のお味噌汁は、お世辞なんかではなく美味しかった。
お豆腐は(さい)の目に、ネギは等間隔に切り揃えられ、油揚げは大き過ぎず小さ過ぎず、食べやすいサイズに刻まれていた。

料理に人柄が出るって、こういうことなんだろうか。


久しぶりにちゃんと食べ物の味がした。
そして美味しいと思えた。
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