一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
食べている間、クロエさんはずっと無言で、ちぃちゃんはどこかへ行ってしまった。
静かな中で人に見られながら一人で食べるのは変な感じがしたけれど、それよりもちゃんと美味しいと思えた事が嬉しかった。


「ごちそうさまでした。
すごく美味しかったです、ありがとうございました」

笑顔で言っていたはずなのに、急に視界がじわじわと(にじ)んできた。
(まばた)きしてごまかそうとしたけど、何も変わらないどころか、形となって目から零れ落ちた。

「あ、すいません……これは違うんです、大丈夫です。すぐ、落ち着くんで……」

なにも聞かれていないのに、勝手に言い訳みたいなことを口にしてしまう。

涙を拭うと、余計に(あふ)れてきた。
でもそのままにも出来なくて、また拭った。
哀しくて泣いているのか、嬉しくて泣いているのか、もうよくわからない。

俯いて涙を拭っていると、クロエさんが立ち去っていく気配がした。


――恥ずかしい。

さっき泣いたばかりなのに、また泣いて。

馬鹿みたい。

みたい、じゃない。

馬鹿だ。


呼吸を整えて顔を上げると、いつの間にか戻っていたクロエさんにハンカチを差し出された。
四隅まできっちりとアイロンがかかったハンカチは、ヴィヴィッドな黄色地にショッキングピンクの大きなレオパード柄がプリントされていた。

こんな派手なハンカチ使ってる人、見たことない。
でもクロエさんには、すごく似合ってる。

そう思いながら受け取って、まだ乾ききっていない涙を拭いた。
汚しちゃうな、だとか、いいのかな、だとか。
そういうことはもう考えなかった。

クロエさんはやっぱり無言だけど、俺に向ける眼差しは、決して冷たいものではなかった。
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