一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
強く握られた指がなんだか寂しそうで、指を握り返すと、振り払う様に手を離された。
そのまま身体も離れていった。

束縛から解放された身体から、さっきまで感じていたクロエさんの熱や感触が消えていく。
汗ばんでいた手は渇いていって、シトラスの香りも煙草の香りも薄らいでいく。

余韻がすべて消えるまで天井を眺めた。
高くて真っ黒な天井は、余計な事を考えさせないでくれた。
次第に、さっきまでの出来事と今が切り離されていく。

「クロエさん……?」

呼びかけてみても何も返ってこない。
身体を起こしてクロエさんの方を見ると、両手で顔を覆っていた。



「最低」



やっと返ってきた応えは、小さく震えていた。
ごめん、と消えてしまいそうな声で言うと、クロエさんは膝を抱えて頭を深く(うず)めた。

自分がしてもらったように、頭や身体を撫でようかと手を伸ばしたけれど、何も出来ずに手を引いた。

膝を抱える姿を見て、知りたいと思った。
昨日から引っ掛かっている事を。


「昨日の夜に言ってた、同じって……どういう意味ですか?」


クロエさんの肩が(わず)かに反応する。

自分はただの20歳の子供で、社会経験もなくて、お酒を綺麗に呑むことも出来なくて、一昨日の夜に会ったばかりの人間。
答えてもらえないかもしれない。

だけど、聞かなかったら後悔するような気がした。
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