一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「―――アオイは、怖くないの?」

頭を埋めたまま、ポツリと言う。
質問の答えにはなっていないけれど、反応をくれたことは救いだった。

「怖いって……何がですか?」

「全部」

「全部?」


「オレは、オレが怖い」


クロエさんはそう言うと、更に深く頭を埋めた。


「どうして逃げようとしないの?」

「自分でも、わからないです……。
わからないですけど……怖いとか、逃げようとか、そういう事が浮かんでこなかったんです」

「こんなにおかしい人間なのに?」

「じゃあ、俺もおかしいのかもしれません」


そう、きっと自分もおかしい。
すべてを受け入れたり、人の事情に踏み込もうとしたり。
いったい、自分は何をしようとしているのだろう。


ゆっくりと顔を上げたクロエさんは、不安と後悔の混じる、迷子の様な眼差しを向けた。

「全部じゃなくて良いです。
話せる範囲で……話してもらえないですか」
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