一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんだったら、こんな時でもイライラしたりしないんだろうか。

急遽入った撮影に行く前、七星さんが動揺しているすぐ隣で、クロエさんはまったく焦る様子なく準備していた。
あんな風に人が焦っていたら、自分なら釣られて焦ってしまいそうだ。
人によっては、もしかしたら七星さんに静かにしろ、と一喝するかもしれない。
だけどクロエさんはペースを乱さず、七星さんを叱ったりもしなかった。
叱ることがマイナスに作用すると思ってなのか、気にしていないのか、どちらなのかはわからないけれど。

そもそもクロエさんは、どこか冷めている様な、感情がここにない様な―――そんな風に見える。
怖いとか、話しかけられないとか、そういう訳ではないし、まったく笑わないわけでもないけれど。

好きな人を失ってしまった事が関係しているんだろうか。



そんな事を考えていると、PCの画面が切り替わった。

作品制作を進めようとしていた筈が、自分の指は「我妻 玄栄」とタイピングし、検索ボタンをクリックしていた。

リキさんも検索して見せてくれたけれど、あの時はパニック状態でほとんど斜め読みだった。
クロエさんの家に一緒に住み、その家の中でクロエさんについて検索するのは、なんだかいけない事をしているような気がした。
でも、クロエさんは、気になるのなら検索しても構わないと言いそうだ。
< 57 / 186 >

この作品をシェア

pagetop