一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんは、写真を見てどう思ったのかは聞かず、ただ器用にパスタをフォークに巻き付けて口へと運ぶ。
何も感想を言わないのも失礼だけど、うまく説明出来る気がしない……。
きっと子供みたいな、幼い説明になってしまう。

そう思っていると、ちぃちゃんが足元にやって来て大きく鳴いた。



自分とこうしていて、クロエさんは楽しいんだろうか。

いや、この契約は楽しいかどうか、ではないのか。


一緒に暮らして、被写体になって、失くしてしまった好きな人の代わりになって抱かれる。


きっとクロエさんにとったら、楽しいかどうかではない。





夕食を終えて食器を片付けると、クロエさんにソファーで待つように言われた。

リビングダイニングキッチンのソファーは葡萄(ぶどう)の様な色をしたベルベット地で、ソファーというとアイボリーやグレーを思い浮かべる自分にとっては、とても珍しい色をしている。
葡萄色のソファーがオレンジの照明で照らされ、不思議な暖かみが辺りへ広がる。

気になったので、シャーベットを手にしてソファーへ来たクロエさんに聞いてみた。

「この家の家具って、クロエさんが選んだんですか」

「親戚にインテリアコーディネーターの人がいて、その人に任せた。
あずちゃんの…この前のモデルの子の母親」

「あずささんは親戚だったんですね」

「かなり遠い親戚だけどね」

あずささんがクロエちゃんと呼び、クロエさんがあずちゃんと呼んだのはそういう事か。
意外だと思っていたから、()に落ちた。
クロエさんの周りは華々しい人ばかりに見える。
その中にいる本人には、それが日常で、もしかしたら気づいていないのかもしれないけど。


ソファーの色とよく似たグレープのシャーベットを食べると、やけに舌はヒリヒリとした。
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