一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
水を飲むと更に舌は冷やされ、おかしな感覚になる。
でも、この感覚は嫌いじゃない。
そう思った瞬間、シャッター音が聞こえた。
音の方を見ると、クロエさんがカメラを自分に向けている。

「今のって……撮ったん…ですか」

無言で頷かれる。

まさか撮られるなんて思わなかったら、完全に油断していた。
きっと変な顔をしてる。


「たくさん撮って慣らしたい」

「確かにカメラ慣れてないですけど……」


そうか。被写体になるって、こういう事か。

クロエさんはまたシャッターを切る。
何回も、何回も。

シャッターを切られる度に恥ずかしさが募っていく。
慣れるどころか煽られているみたいで、耐えきれずに顔を覆う。


「恥ずかしいの?」

「そうですね……あまり写真って撮らなくて。
レンズ見るだけで、構えてしまうというか……」

「じゃあ、俺の眼だと思って」


逆効果。
それではむしろ緊張してしまう。

やっぱり、自分が被写体で良いんだろうか。

クロエさんは、撮りたいと思ったと言ってくれた。
それに、好きだった人の身体に似ているとも言った。

だけど―――



「不安?」

「……え?」

「不安そうに映ってる」


カメラを置くと、クロエさんは苛立つわけでも、からかうわけでもなく言った。
あまりにもクロエさんが真っすぐ見つめるから、思わず目をそらしてしまう。

「あの……自分で、良いのかと思って」

目をそらしても、クロエさんはそのまま見つめている。
そのままどころか、もっと強く視線を感じる。
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