一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
しゃべり過ぎてしまったと思いながらクロエさんを見ると、目が合った。
クロエさんは少し考えるような顔をしてからソファーに深く座り、膝《ひざ》を軽く叩いた。

「こっち来て」

「こっち……って」

「来ないなら、こっちから行くけど」

「いえ、行きます…!行きます…!」

来ようとするのを止めたくて、つい、行くと答えてしまった。
それも2回も。

ソファーから立ち上がり、クロエさんの処まで行って座る。
たったそれだけの事なのに、身体が動かし方を忘れてしまったかのように上手く動かない。
歩いた心地もしない。
動揺を悟られたくないのに、嫌になるくらい耳まで熱いのがわかる。
クロエさんの様子はまったく変わらなくて、ただずっと自分を見ている。

自分が見上げられているのに、見下ろされている様な気がするのは、どうしてだろう。
それだけ自分に余裕がないんだろうか。

変わらない表情を背にして膝の間に座ると、白い腕を身体へ回された。

これは契約、意識する必要はない。

それはわかっているけれど。
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