一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
腰を抱き寄せ、冷たい指で耳朶(みみたぶ)から顎、顎から首筋へとなぞられると、この前みたいに自分の中が侵食されていった。

肩にもたれるクロエさんの髪や唇の先が、首筋や鎖骨に触れる。
髪は、服の中にまで侵入してくる。

「さっきので充分。
足りなくなんてない。
それに言葉とか説明って、そんなに重要?」

口を開く度にクロエさんの唇が触れる。
心臓は騒々しく、身体は固くなる。

「……そう、じゃないですか?」

「必要な場面もあるかもね。
でも、オレは重視してない」

首筋に息が絡んで肩は強張(こわば)り、指に力が入る。
それに気づいたのか、安心させる様に肩を撫でられた。

「個性も、後からついてくるものだし」

肩を撫でていた指が徐々に下りていき、触れるか触れないかくらいのタッチで腕を撫でられる。

胸の奥なのか、底なのか。
どこだかわからない、身体のずっと奥の方が脈打つ。

「いろいろ難しく考えないで。
全部、オレの所為にしていいって言ったでしょ」

「そうですけど……」

「いいの」

耳元でそう(ささや)かれると、だんだん考えられなくなってきた。


シトラスと煙草の香りのせいかもしれない。

普段より甘い声のせいかもしれない。


自分がばかになったみたいな、おかしな感覚で何もかもが支配される。
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