一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「して欲しいこと、ある?」

「……え?」

「唇の形、似てるんでしょ?」

一瞬、何の事なのかわからなかった。

茉莉香に似た唇で、自分に何をして欲しいのか―――
そう聞かれている。

指と指の間を、クロエさんの指がゆっくりと往復して撫で上げていく。

知らなかった。
指ってこんなに敏感なんだ。

「ねえ、言って」

胸に何かが込み上げて、息が漏れそうになる。
何も言わない事を罰するように爪を軽く立てられると、背中は仰け反った。

「言って」

唇が耳に触れると、我慢出来ずに息が漏れた。

「無理…です……」

「言えない?」

漏れる息をごまかそうと大袈裟に頷くと、クロエさんは身体を離してポケットから何かを出した。
爪を立てていた手に、それを握らせる。

パドロックのモチーフが付いたキーホルダーには、鍵がついていた。


「次は、ちゃんと言って」


クロエさんは空いたグラスを持ってキッチンへ向かった。
テーブルに残された水滴を見ながら身体の力は抜け、(てのひら)では鍵が光っていた。
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