一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
姫野さんがカレーを温め始めると、クロエさんは一服(いっぷく)したいと言って部屋を出た。
それと入れ替わるように、ちぃちゃんが来て足元で甘え始める。
ちぃちゃんとの距離はすっかり縮まった。

「アオイちゃんって何者」

「え?」

「ちぃちゃんがもう懐いてるから。
僕なんか、いまだに懐いてもらえない」

「姫野さんはクロエさんとは、いつから?」

「知り合ったのは4年くらい前かな。
あの頃のクロエくん、髪の毛は紫でさ」

紫だった時期もあるのか。
水色、ピンク、紫。
そして今の、金と緑のグラデーション。
クロエさんがやっていない髪色はあるんだろうか。

「最初に会った時は正直なところ、自分と別世界の人だなぁとか、この人なに考えてるんだろうって思ったんだよね。
でも、話すようになったら……」

そう言いかけると姫野さんはドアの方に目をやり、クロエさんが戻って来ていない事を確認した。

「クロエくんって、さり気ない気遣いがうまいんだよね。
すごくさり気なくやるから、気付かない人もいるかもしれないけど……。
そういうところが、すごく好き」

姫野さんが笑顔で、あまりにもはっきりと好きと言うから驚いた。
女の子同士が、好きとか可愛いとか言い合うのはよくあるけれど、男性がこんなにはっきりと好きって言う事は珍しいんじゃないだろうか。

「あ、驚いた?」

姫野さんはそう言って、爽やかに笑う。
どうやら驚いたのが顔に出ていた。

「はい、少し」

「好きだと言いたくなっちゃうんだよね、好きだって。
クロエくんに直接は言った事ないけど。
アオイちゃんもクロエくんと暮らしてて、()かれない?」

姫野さんは答えづらい質問をする。
肯定も否定もしづらい。

答えに詰まっていると姫野さんのスマホが鳴った。
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