一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「花屋の花とナナくん達が着いたって。
アオイちゃん、玄関まで行ってもらえるかな?」

良かった、答えないで済んだ。


人としてまったく惹かれていない、と言ったら嘘だと思う。

クロエさんには、どこか目を離せないところがある。

でも、それを口にするのは勿体ないというか……違う気がした。





玄関の扉を開けると、花屋の花がそこにいた。

「うお…綺麗な顔がいる」

花屋の花――律さんは開口一番にそう言った。
だけど綺麗な顔をしているのは、俺よりもそう言った本人だと思う。

「ちょっと律、ちゃんと挨拶して!
ごめんなさい、不躾《ぶしつけ》な奴で。
七星の姉の、七海(ナミ)って言います。
こっちは夫の律です」

律さんの隣には、ナナセちゃんとそっくりな顔をした女性がいた。
抱いていた疑問が確信に変わる。

ナナセちゃんのお姉さんだ。

話し方や振る舞い方はまったく違うけど、顔やカールがかかった髪はとても似ている。
薄っすら見える、そばかすも。


「身内が騒がしくてすいません……」

七星さんが申し訳なさそうに後ろから顔を出した。
ナナセちゃんのお姉さんと、お兄さん……。

「アオイちゃんは、餃子派?カレー派?」

くりくりした丸い目で、七海さんは覗き込んでくる。
ナナセちゃんが、アオイ先輩の好きな食べ物やスイーツってなんですか?、と聞いてきた時と同じ顔だ。

胃なのか、胸なのか。
その辺りが曇りだす。
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