一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「アオイちゃん、男どもがうるさくってごめんね。
男どもっていうか、うちの夫がうるさいんだけど……」

「いえ、楽しいですよ」

「準備は全部あいつらにやらせれば良いから、アオイちゃんはこっちで何か飲もうよ。
七星、私とアオイちゃんに飲み物持ってきて」

七海さんは、かなり強気になったバージョンのナナセちゃんに見える。
女姉妹に挟まれる七星さんの立場は弱そうだ。

七海さんは目が合うと、うちの弟で良かったら使ってね、テンパりやすい奴だけど、と言って笑った。


いま、俺はちゃんと上手く笑えているだろうか。

自分に向けられる笑顔が刺さるように痛い。



「ねーねー、俺そろそろ餃子焼き始めちゃって良い?
クロエは?家主がいないじゃん。
あいつやる気あるのかよー」

「カレーと餃子にやる気も何も…。
煙草吸いに行ってから、まだ戻ってこないんだよね。
僕、スマホにかけてみるよ。
………ああ、置いて行っちゃってるね」

ダイニングテーブルの上でクロエさんのスマホが振動した。
そういえば、未だにクロエさんと連絡先を交換していなかった。

自分がクロエさんを呼びに行くと言うと、七海さんは七星さんに行かせると言った。
だけどそれを断って、ソファーを立った。

外の空気を、吸いたい。





クロエさんは多分、一緒に暮らし始めてから外で煙草を吸うようになった。
煙草を吸っているのを見たのは一回だけで、それ以降はまったく見なかった。
だけどいつもシトラスの香りには、少しだけ煙草の香りが混じっている。


玄関に向かう途中、窓から外を見ると離れの格子戸が少し開いて見えた。
前に、明るい時に見てみたいと思った純和風の離れ。
結局まだちゃんと見た事はなくて、クロエさんにも聞きそびれていた。
もしかして、クロエさんは離れにいるんだろうか。
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