一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんはずっと視線を離さない。
冷たい眼なのに、見つめられていると身体は汗ばんでいく。

指が(もつ)れてしまって、靴が脱げない。
見られていると思えば思うほど、余計に時間がかかる。
半ば無理やり、脱いだ。


部屋の中は煙草の残り香が漂っていて、あの真っ黒なリビングでの事を思い出した。

クロエさんの唇に触れて、泣いた日。
今でも指は、あの時の感触や熱をはっきりと覚えてる。



クロエさんの唇を見ていたら、足が進まなくなった。

なんだか自分が、いけない事をしているような気がして。



「前にも言った気がするけど、来ないなら、こっちから行く」

腕を掴まれて、そのまま一緒に畳の上に倒れ込んだ。


クロエさんと目が合う。

背を向けると、すぐに腕を伸ばされた。
まるで何かに(すが)るみたいに、力強く包まれる。
Tシャツ越しの背中に、クロエさんの額《ひたい》や唇、息遣いを感じた。


固く閉じていた脚の間に、クロエさんが脚を割り入れる。

驚いて身体をよじったけれど、もう手遅れで、あっという間に脚と脚を絡ませられた。
身体はぴたりと重なり、身体の重みや体温、呼吸。
すべてがそのまま伝わってくる。
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