一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
肘から二の腕を、ゆっくりと指先で撫でられて身体が震えた。
指先よりも、もっと弱い。
触れているのに、触れていないみたいに。

さっきまで煙草を手にしていた指先は、身体の上でも器用に動く。

指先は徐々に内側に移動して、二の腕の内側を撫でた。

自分が一番、身体の中で気にしている部分―――
人からは太くないと言われても、自分としては気になる。

恥ずかしくなり、つい、どうでもいい事を口にする。

「畳って、寝転がると……」

「寝転がると?」

質問を被せて言葉を(さえぎ)り、クロエさんの唇が首筋を吸う。
つい息が漏れると、また唇を押し当てられた。

「寝転がると、なに?」

さっきよりも強く首筋を吸い、二の腕に爪を立てる。
反射的に力を入れていた足裏を、黒いペディキュアの爪先でなぞられると、自分の中のリミッターの様なものの行き場がなくなった。

答えさせる気なんてないくせに、クロエさんはまた、「なに?」と聞いてくる。
いつもより強い煙草の香りに酔いそうになる。


「子どもに…戻ったみたいな…感じ、しませんか」

「子どもは、こんな事しないんじゃない?」

音を立てながら何度も何度も、首筋を吸う。
和室に響く音は生々しくて、次第にその音に自分の息遣いも混ざっていった。

クロエさんの指先が、肩から鎖骨をなぞる。

首の付け根を何度か撫でると、手のひらで喉を押さえられた。
苦しさや痛みはないのに一気に鼓動が高まって、気が付くと自分からも脚を絡めていた。
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