一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
身体の中に、もどかしさが溜まっていく。

「今日はちゃんと、言える?」

「……ちゃんと?」

「して欲しいこと」

そうだ。
ずっと頭に付き纏っていた。

だけど、今はもう考えるとか、思い出すとか。
そういう機能は自分の中から失われている。

「言わないなら、勝手にする」

喉を押さえる手のひらに力を加えられ、首筋を吸う唇は荒々しくなった。
思わず腰が波打つ。

「どうして腰、動いてるの」

手のひらだけだった力が指先にも加わり、首に歯を立てられると背中が仰け反った。
少しだけ身体が離れると、その隙間を埋める様にクロエさんは強く胸を押し当てる。

「言葉とか説明が大事みたいに言ってたのに、何も言ってくれないね」

首に歯を食い込ませ、脚で下半身を抑えられると身体の自由はなくなった。
逃れる様に畳に爪を立てると、上から手を重ねられた。

きっとクロエさんは、今だって冷たい眼をしてる。
だけど重ねられた手は、とても熱かった。

「もし…七星さんや七海さんが呼びに来たら……」

「どうでもいい」

面倒くさそうに言うと、Tシャツの中へと指を滑り込ませる。
今までどれだけ身体を触られても、こんな風に触られた事はなかった。

「クロエさん待って、それは……」

「それは?」

クロエさんの指は、服の中でもやっぱり器用に動く。

「それは、さすがに……ダメ、だと思う……」

「じゃあ、どこまでなら良いのか説明して」

そう言うと、さっきよりもっと強く首に歯を立て、肋骨に沿って手を這わせた。

判断基準は、自分でもよくわからない。
だけどこれ以上は危険を感じた。

「説明できないけど…ダメです……」

「一か月、だけだから。
一緒におかしくなるんでしょ?」

胸の下を親指でなぞられると身体が震えた。
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