あなたがそばにいるから
外に出ると、寒かった。
頭の中はまだ8月だから、やたらと風が冷たく感じる。
赤木が持ってきてくれたパーカーを着た時は、まだ早いんじゃないかと思ったけど、ちょうど良かった。
10月なんだもんね。
当たり前だけど、カレンダーは10月だし、テレビを見ても秋の話題だし、周りの人達はみんな長袖を着ている。
置いてけぼり感は拭えない。
「寒いか?」
外に出て立ち止まった私に、赤木が聞く。
「大丈夫。このパーカーあったかい」
笑顔で言うと、赤木も安心したみたいに笑った。
病院は意外と近くて、タクシーで10分もかからずに家に着いた。
マンションは、なんだか久しぶりに帰ってきた気がする。病院には2泊しかしてないのに。
中に入ると、他人の家みたいな感じがした。
戸惑っている私に気付いたのか、赤木が頭をぽんとなでる。
「お疲れ。自分ちだぞ」
「うん……」
記憶の中の家とは、やっぱり少し何かが違う。
少しずつ、物が置いてある場所が違うんだ。
大きな家具はそのままだけど、クッションとか、放ってある服とか、リモコンとか。
だから、少しだけ違和感を感じる。私がいない間に、誰かが家に入ったみたい。いや、私なんだけど。
「昼ご飯どうする?なんか食べたいものあるか?」
部屋を見回している私に、赤木が言う。
昼前に病院を出たから、ちょうどいい時間だ。
「そこのコンビニでいいんなら買ってくるよ」
「私も行く」
なんか、1人になるのはちょっと嫌だった。
玄関を出ると、赤木が頭をぽんとなでた。
「今日、俺、まだいていいか?1人でゆっくりするか?」
見上げると、笑顔だけど、目は心配そうに私を見ている。
「……まだ、いてくれる?」
「わかった」
先に歩き出した赤木の後ろ姿は、記憶の中の背中と同じ。
なんだか凄く安心して、後を付いて歩き出した。