if...運命の恋~エリート循環器医は彼女を手放せない~

大学病院の夜の待合室は殆ど光がなくて、非常灯の緑の光だけがあった
長椅子に腰掛けて、さっきの義母の言った言葉を思い返してみる。

ずっと、愛されていないって思ってた。父には愛する新しい家族が出来たのだから。だから、私は父を避けようと努力してきたんだ。
自然に大粒の涙が頬をつたい俯くと、背後から優しい声が聞こえた。


『薫、ここにいたんだね。やっと見つけた』
「ん?・・俊」

穏やかに微笑むと、私の座るソファの横に腰を降ろした。

『何、一人で泣いてるんだよ。僕の胸がないのに』
「俊ったら」
『ほらッ、おいでよ』

両手を広げて私を迎えいれる格好をする俊の腕の中におさまると頬を寄せた。
俊の温かい手で頬を包み込むと、親指で私の涙を優しく拭ってくれた。

『お父さんだけど、今はまだ小康状態だ。緊急でPCIの後、ステントを入れたから。病変部位の再狭窄や梗塞の心配はないけど、心配なのは・・』
「呼吸していなかったものね、俊が救急車の中で挿管してアンビューで酸素送ってくれてたけど・・・時間がかかったから意識が戻るかって事でしょ?」
『・・・うん』

こんな時、医者である自分が悲しくなる。
普通ならそんなリスク、自分では考えられないし、今すぐ教えてもらう事でもない。何日か経って、意識の回復がみられない場合に医師から説明される事の方が多い。


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