if...運命の恋~エリート循環器医は彼女を手放せない~

そう言うけれど、僕の瞳を見ようとしない。”関係のない子だって? どうして僕を避ける? どうして避ける理由があるんだ?!”そう言いたくて。
僕は薫の座る椅子の前に、目の高さになるような体勢を取り視線をあわせようとした。


『薫・・こっちを向いて、僕を見てほしい』

僕のそう言う言葉を無視するかのように、顔を背けた。そして、小さな声で言ったんだ


「・・お願いです。私の前に現れないで・・もうすぐ、此処に主人が来るんです。あなたとこんな風にしてるところを、見られたくないんです」

主人? その人の子供なのか?
だとしたら、確かにこんな状況は困るんだろう。そんな風に冷たく言われても、君の傍から離れたくない。

『・・・・そうか、そうなんだ、わかった。 僕ね、来週 日本を離れるんだ。もう、二度と会うこともないけど、薫は・・・その、元気でいて欲しい。薫が幸せなのを 最後に見れて良かったよ・・幸せに、そして、さようなら。もう行くね』

薫は俯いたまま、僕が目の前を立ち去るまで顔をあげる事はなかった。
膝に置いた手が震えていたのが気になるが、彼女に触れるのは躊躇われた。

現実を知って僕の心は大きく痛む。後になって気づいた事だけど、君と離れていたこの数ヶ月で、本質を見極める場所が破壊されてたのかもな。でもその時は、自分の気持ちをコントロールする事だけで精一杯だったんだ。

薫の瞳には大粒の涙がたまって、僕が歩きはじめた時には
薫の白い頬を幾重にも涙が濡らしていた事を知るよしもなかった。

君の言葉を鵜呑みにして離れる事を選んだ僕は、きっと薫の口から僕以外の男の事をこれ以上聞きたくない。いや、聞いたとしても記憶に留めたくなかったんだ。


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