if...運命の恋~エリート循環器医は彼女を手放せない~

父親が倒れた
そうメイルが薫の義母から送られてきたのだ。薫の父親はここ最近、調子が悪いと仕事を休んでいたらしいのだが、義母から父親に病院で検査するように言っても「大丈夫だ」の一言で聞きいれてくれないらしい。

身体の調子が悪いだなんて、聞いてもいなかった。薫が父親と暮らしていたのは、もう数年前になる。

薫が8歳の頃、病気で産みの母親が亡くなった。暫くは悲しくて父親だけを信じて頼りにしていた。父親も母が亡くなった時は仕事も手につかないほどだったのだが、そんな父親が1年後には再婚をする事になったのだ。
多感期な少女時代に、信頼していた父親に裏切られた気持ちになりひたすら
勉学に励んで、一日でもはやく家を出る事が目標になった。

薫はホテルのトイレでピンクのドレスを脱いでいつも通りの私服に着替えた。トップスは白のハイネックブラウスにピンクベージュのストレートパンツをあわせてエレガントなシルエットだ。パンプスはそのままに、脱いだ衣服は奈々子のモノだし紙袋に入れて持ち帰る。明日にでもクリーニングにだすべきだろう。自分だったら絶対に選ばない明るいピンクカラーに少しだけ戸惑った自分を思い出した。

「でも、良い思い出になりそう」

さっきまで会話を楽しんでいた彼の顔が浮かび、爽やかな笑顔と笑い声が素敵だった。と思った。もう少しだけ話したかったな、、薫は慌てて頭をブンブンと降った。
とにかく急がなくちゃ
腕時計を確認すると20時を超えたところだった。

電車が早いのかタクシーにした方が良いのかとホテルの正面の
車寄せを見ると、残念なことにタクシーが止まっていない。

「電車になりそう。わぁ、雨」

いつの間にか小雨が降っていた事に気づく。傘もないのにどうしようと考えていると、一台の白い高級ドイツ車が目の前に停まる。
車の窓ガラスが下がって運転席に先ほどの彼の姿が現れた

『僕も帰る事にしたんだけど、送るよッ! 乗って!』
「えッ?」

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