if...運命の恋~エリート循環器医は彼女を手放せない~

実家に行ってから数日が過ぎた。
薫は月曜から仕事も忙しく、やっと今日、自分のマンションへ戻って来た

さすがにあれからぐっすり眠るなんて事はできなかった。目を閉じて瞼に浮かぶ
のが、弱った父親の姿だった。あんな父親の姿を今まで目にした事がなかった。
いつも威張っていて、考えを相手に求めるけど、けして認めない

いつも人を睨むように見る癖に、だけど母に声をかける時だけは優しい目をした
父を知っていた。だから、怖いなんて感じた事がなかったし、なのに
見る影がないほど弱っていたから、薫は動揺してしまったのだ。


「薫、お願いがある。慶生に来てくれ。お前だけが頼みなんだ。
私の手助けをお願いしたい。頼めるのはお前だけだ」

初めてだった
父に ”ああしろ!こうしろ!”と命令された事は随分ある
だけど、”お願いだ”と言われた事はなかった。


「何でパパの大学に今更私が?」
「お前しかいない。お前はイイ医者になったようだ。お前なら任せられる」


医者が父親一人だったのなら解る。だけど其処は大学病院で父の下には
私より腕の良い頭のキレる医者はごまんといるはずだ。
娘とはいえ、学長の父の手助けなんて何もできない。

それに、それに応えるのなら、私は今の病院を辞めて慶生大学の医局に入局する
という形になる。医学部時代から永くいた病院だが、研修後期が昨年終了し
やっと専門医になれた今、私には荷が重いのではないだろうか。

それにしても、なぜ、私に?

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