if...運命の恋~エリート循環器医は彼女を手放せない~

彼のそんな唐突な質問に、少しだけ頭を傾けた。

『もし、良ければ終電も終わってるし、また家まで送らせて欲しいんだけど。
この差し入れのお礼も兼ねて、ねッ』

彼がこんな風に言いにくそうにする姿は、医師の時にはみられない。
薫は少しだけ答えを出すのに時間をかけていたが、少し気まずい思いで答えた。

「でも、私は結構です。帰るのならタクシーで帰りますから」
『ふーん・・タクシーで?』

お断りした後、彼の顔を見る事なんて出来ないし、再び手元の本に視線を移すと、さっき彼が質問した答えが出たような気がした。
過去を引きずるタイプだって言ってるようなモノだわね。

彼はお弁当を食べ終わると、『シャワー行って来よう!』って言葉を残して、医局を後にした。本を読みながら、彼を待っていたわけじゃない。そこから、ただ動かなかっただけで。


暫くすると、濡れた髪をタオルドライしながら再び医局へ戻って来た。
湿り気を帯びた髪が、ますます彼を色っぽく見せるのか、一瞬目を奪われかけて、あわてて目を逸らす。
そんな私の様子を微笑ましそうに、彼がみつめているのを気づいてしまい、ますます顔をあげられない。

すでに、スクラブシャツから私服に着替えているが、ベージュのニットにブラックのスリムなスキニーパンツを合わせているだけなのに、大人の男の色気が隠し切れず溢れている。
自分の椅子にドサッと深く腰を降ろすと、脚を組んだ。
もともと長い脚が強調される。
すると、突然に彼の低くて優しい声が聞こえてきた。

「大澤先生、、いや、大澤薫さん、今度は片瀬俊として誘ってみるけど、、
ちょっと一緒にドライブしない?夜ドラするには良い時期なんだよ。 どう?」

そう言いながら、彼はブラックジャケットを手に取った。


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