御曹司の溺愛から逃げられません
お店に入ってもどこか会話が弾まず、私も視線をテーブルの上に落としたまま。
気まずい空気の中、お互いにハンバーグランチを頼むとまた無言になってしまった。
店内はかなり混み合っておりざわざわとしているが私たちのところだけとても静かだ。
私は沈黙を破るべく瑛太さんに話しかけた。

「こ、混んでますね。やはり人気なんですね。よく予約が取れましたね」

「あぁ。連絡してみるもんだな。空きが出たと言われたんだ」

会話が終わってしまった。
私とのお出かけはやはり無理だったのかもしれない。私なんかが彼と同じ時間を過ごすなんて所詮無理な話だったのかも。この前は楽しかったけど、それも彼に気を遣わせていてのかもしれない。
私は膝の上に置かれた手でスカートを握りしめた。

「やっぱり似合うな」

「え?」

彼がなんて言ったのか聞き逃してしまった。私が顔を上げ、彼の顔を見ると横を向いていたが何故か少し赤くなっているように見えた。

「やっぱり似合うと言ったんだ」
 
小さな声で呟くように言っていたその言葉に私は胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
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