御曹司の溺愛から逃げられません
「待って!」

私は思わず彼の腕を掴んだ。

「待ってください。私も瑛太さんが好きです」

勢いよく私は彼に告白してしまった。
私に腕を掴まれたままの彼は振り返ると、今まで見たことのない笑顔で私の顔を見つめていた。

「本当か?」

「はい。あなたと少しでも話したくて朝出勤していました。あ、もちろん仕事も好きだからですけど、それ以上に少しだけでも言葉を交わしたくて行ってました。すみません」

口にしてみるとちょっと不純な動機で仕事に行っていたみたいで気まずい。

「本当に? 俺も君と朝話すのが楽しみだったんだ。だから用がなくても早く出勤していたときもあった」

「え?」

彼はいつも朝から仕事をして尊敬する上司だったのに私と話したくて行っていた時もあったの?
その言葉を聞いて急に胸が熱くなってきた。

「同じだと思っていいのか?」

私は言葉にならず、頷いた。

「良かった」

私に掴まれたままの腕を引くと勢いで私は彼の胸の中に閉じ込められた。
耳とまで彼のバリトンボイスが聞こえてきた。

「香澄、好きだ」

初めて下の名前で呼ばれた。
私は彼のシャツにしがみつき、私もですと小さな声で伝えた。顔を見ることはできず、俯いていると、また耳元で声が聞こえた。

「顔を見せて」

なんだか急に甘くなった声に私の心臓はこれでもかというくらいの速さで鼓動を打つ。
やっとおずおずと顔を上げると正面には私を見下ろす彼の満面の笑みがあった。
そして顔が近づいてくると私の唇とそれは重なりあった。
この日を境に私たちの距離は近くなった。
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