御曹司の溺愛から逃げられません
どれだけここにいたのだろう。
だいぶここにいてしまったとはたと気が付いた。
慌ててスマホを取り出すとメッセージが何件か届いていた。

【お疲れ様。近くのカフェにいるからゆっくりでいい。終わったら連絡してくれ】

19時に受信しており、今の時刻は20時半。
慌てて私は彼に電話をかけた。

「遅くなってごめんなさい」

電話に出ると同時に勢いよく謝ると、彼は優しい声で、お疲れ様と返してくれた。

『もう終わったのか?』

「はい」

『分かった。今から行くよ』

そう言うと電話が切れてしまった。
私は慌てて涙で落ちてしまったメイクを直し、バッグを持つと店舗の裏口へ回った。
外に飛び出すと向こうから瑛太さんが歩いてくるのが見えた。
よく考えたらここまで迎えにくるのはまずいのではないか、と不安になり私は彼の元へと駆け寄った。

「お待たせしました。ここでは目立ちますから移動しましょう」

私は早口にそう言うと、彼の手を引き駅の中へと足をすすめた。

「香澄?」

私の様子に違いを感じたのか彼は伺うように目の前から私の顔を見つめてきた。

「ち、近いです」

私は彼の顔に手を当て、俯いた。

「久しぶりの香澄の手だ」

彼は顔の前にある私の手を握ると絡めてきた。

「え、瑛太さん!」

小さな声で叫ぶと、私は手を離そうとした。
が、彼は私の手を緩めはしなかった。
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