御曹司の溺愛から逃げられません
課長の後ろ姿をポカンと見送っていた女性だが、はっと我に帰ると私をまた睨んで来た。

「し、失礼致します」

私が前に着席するとため息をつかれた。
それにもめげず、ご希望を伺うが本当に部屋を探しているのかわからないような状態だった。なげやりで、いくらネットを見ながら話しても前向きな姿は見られず内覧に至らない。

「もういいや」

そう言うと田原様は立ち上がり帰ってしまった。

「またのお越しをお待ちしております」

背中越しに声をかけるが振り返ることもなく颯爽と歩いて行ってしまい、彼女の強い香水の残り香だけが私の鼻に残った。「課長、すみません。田原様にご案内しましたが内覧に至らず、お帰りになってしまいました。申し訳ありません」

紹介で来ていただいた方なのに内覧にも至らず帰してしまったことを謝罪した。

「いや、あの人は最初からそんなつもりもなかったからいいんだ。むしろさっさと帰ってくれてよかったよ。押しつけて悪かったな」

「え?」

課長は珍しく苦笑いを浮かべていた。
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