御曹司の溺愛から逃げられません
「おはようございます」

いつもより遅い時間に出勤すると既に何人かがデスクについていた。

「おはよう。柴山さん珍しいね、この時間になるの」

「ちょっと遅れちゃって。すみません」

私はデスクの引き出しに貴重品をしまいながら答えるとみんな笑っていた。

「いや、いつも早いのに来ていないから心配していたんだ。体調でも悪いんじゃないかと思って」

山﨑くんが声をかけてくれ、みんなも口々に同じように話しかけてくる。

「そうだよな。柴山さんがいないことに驚いたよ」

「俺も! 鍵開けたの初めてだよ。いつも早く来て準備してくれていたんだって気がついたよ」

みんなの言葉が胸を温かくする。
好きで早く来ていたのにみんなから感謝される日が来ると思わなかった。

「ごめんなさい。ただ遅くなってしまっただけなんです。ご迷惑をおかけしました」

「迷惑なんかかけてないよ。俺らの方が迷惑かけてるよな。俺らも早めに来るようにするからな」

「今日はたまたまですから。私が好きで早く来ているだけなので気にしないでください」

私が頭を下げると後ろから米田さんの小さな声が聞こえてきた。

「いい子ぶってるよね。好きで早く来てるのにみんなから感謝されて、ちやほやされちゃなんてね。あの子がするとみんながしなきゃいけなくなるってわかんないのかな」

せっかく少し胸の奥が温かくなったのに今は凍るように冷たくなっていった。
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