御曹司の溺愛から逃げられません
「ただいま」

私はなんとか仕事を終え、今日は定時で帰宅した。お昼ご飯も喉を通らず、作り笑いでとても疲れた。

「おかえり」

私の部屋の玄関で出迎えてくれる彼に抱きついた。

「どうした? 帰って早々甘えただな」

「……うん」

「さ、実は俺がチキンを煮込んでおいたんだ。手を洗って一緒に食べようか」

私の鞄を受け取ると優しく洗面所へと連れて行かれた。
ふと鏡に映った顔を見てがっかりした。顔色は悪く、目元にくまができていた。どことなくやつれたようなくたびれた表情に見え、私は思わず顔を洗うと部屋着に着替えた。

その間に彼は料理を温めてくれたのかいつものテーブルに料理が並べられていた。
せっかくの休みなのに料理をさせてしまって申し訳ない。私はふとその場に立ち尽くしていると、彼は頭をかきながら笑っていた。

「ネットで検索しながら作ったんだ。見た目はこんなだけど味はまあまあだと思うよ」

「ありがとう」

きっと昨日の私の様子でメンタルが弱っていると感じていたのだろう。だからわざわざパソコンを自宅まで取りに行き、うちで仕事をしてくれた。その上、夕飯まで支度をしてくれるなんて、弱音を吐けない私が少しでもくつろげるよう気を遣ってくれたのだろう。
そんな彼の優しさが冷え切った心をまた少しずつ温めてくれる。
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