御曹司の溺愛から逃げられません

転勤

瑛太さんが転勤してから3ヶ月。
部長から呼び出され、ミーティングルームに向かった。

「柴山。最近どうだ?」

漠然とした質問で答えに悩んでいると部長はガハハと笑っていた。
よく言えばおおらか、悪く言えば表裏がなくすぐ口にしてしまう部長。

「柴山はよくやってくれてる。みんなわかってるぞ。けど、そろそろここも長くなってきたし転勤の話が持ち上がっている」

「転勤ですか?」

「あぁ。うちの社員である限り移動はつきものだろう」

たしかに3年から5年以内には移動しているように思っていたがこのタイミングで少し驚いた。部長はうなずくと驚くことを言い出した。

「それでだな、秘書課に押していたんだがそれが通って本社の秘書課への移動なんだ。欠員が来月出てしまうのでいいタイミングだった」

「秘書課? まさか!」

思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
私は秘書検定を持っているわけでもなく、ただの事務員なのに務まるわけがない。

「柴山の細やかな気遣いをみんな知ってるよ。仕事は丁寧だし、顧客への対応もとても良い。縁の下の力持ちだと思ってるんだ。だからこそ本社でもその力を発揮できると思っている」

「無理です! 本当にできません」

ガハハとまた笑う部長に少し睨んで私はテーブルに前のめりになった。

「大丈夫だよ。君へは他の人からの推薦もあるんだから」
 
「推薦?」

「ま、そこはいいとして社会人として辞令には従わざるを得ない。もし本当にダメなら俺が助けてやるから頑張ってこい」

そんな……。
ダメなら助けてくれるって、今すぐに助けて欲しい。秘書だなんて畑違いな仕事を私ができるわけがない。
頭の中は真っ白になり、呆然としてしまった。
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