御曹司の溺愛から逃げられません
「お待たせいたしました」

私は10分で支度をして、目につくものはあらかた片付けただけの状態ではあるが、なんとか彼を呼び入れても大丈夫なくらいにはして彼を迎えにいった。

「急がせてごめん。どうしても今日話したかったんだ」

「あの……片付いてないですけどよかったら家にどうぞ」

私と彼の関係はまだ付きあっているのかもしれないが、もう今までのように話せない。
どうしても社長として彼を見てしまうので口調が固くなる。

「香澄。約束してないのに押しかけてすまない。でもありがとう」

彼は私の背にそっと手を当てるといつものようにエスコートした。
よく考えてみたらすごくスマートな仕草だ。彼の育ちの良さがそこかしこに出ていたのに、今までどうして気が付かなかったのだろう。
部屋に入ると彼は急に私の唇を奪ってきた。

んん……。

「香澄……」

キスの合間で私の名前を呼ぶ彼の声に背中がざわめきだす。
このまま彼にしがみつきたくなる。

「え、瑛太さん」

私はぐっと彼の肩を押したが、彼は私の背に手を回し離してくれない。
キスを再開させようとする彼を阻止するため私は下を向いた。

「香澄」

「待って! 私はもう瑛太さんとは付き合えない。もう私の知ってる瑛太さんじゃない」

「そんなことない」

彼は離さないと言わんばかりにぎゅっと私を抱きしめてきた。
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