御曹司の溺愛から逃げられません
月曜日からまた1週間が始まった。
先週教えてもらった業務を少しずつこなし始めるがまだまだ教わることが山のようにある。
メモを片手に立川さんに張り付いて動き回っている。

「柴山さん、社長にお茶をお出しして」

立川さんから声がかかった。
仕事なので嫌とは言えない。むしろ私にできるのはお茶出しくらいなもの。

「かしこまりました」

私は給湯室へ向かうと彼のカップを取り出した。来客でない時に使う彼のカップは大きめな美濃焼だった。各地の視察に回るたび、気に入った焼き物を買ってくるのが趣味のようだ。私はそんな趣味があったなんて知りもしなかった。なんて浅い付き合いだったのかとため息が漏れそうになった。

コンコン。

「どうぞ」

彼からの声がかかるのを待ち、入室した。

「社長、コーヒーをお持ちしました」

「ありがとう」

私はデスクの端にそっと置いた。そして頂き物のチョコレートを添えた。
部屋を出ようとすると彼に呼び止められた。

「香澄、チョコレートありがとう。疲れが取れるよ」

彼のその声にドキドキして胸が熱くなる。
自分から彼との距離を取ろうとしているくせに名前を呼ばれるとどうしようもなく胸の奥が締め付けられ苦しくなる。
私は逃げるように部屋を後にした。
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