御曹司の溺愛から逃げられません
課長に連れて行かれたのは隣の駅のダイニングバーだった。
ふたりで一駅分話しながらお店に入るが、その後も話は尽きなかった。聞き上手で話し上手なことはわかっていたが、お酒の力もあるのかプライベートな内容まで話してくれ私もだいぶ気が緩み普段しない話までしてしまった。

ピンチョスをつまみながら向かい合った課長に話しかける。

「私ね、スイーツ巡りをするのが大好きなんですよ。美味しいお店を探すのも好きで休みの前夜にネットで調べておいて回るんです」

「ひとりで?」

「そうですね。ひとりが多いです。仲の良い友達はみんな土日休みですから合わなくて。だからひとりで行くのに慣れちゃいました」

ウフフ、と笑いながらまたサワーを口にする。2杯目なのになんだか体がぽかぽかして温かくなってきた。いつもより楽しくなり笑いが止まらない。

「俺もひとりで出歩いているよ」

「えーっ、課長がひとりな訳ないじゃないですか。可愛い彼女を連れてるんじゃないんですか? それとも彼女は土日休みですか?」

「いやいや、本当にひとりだ。35のおじさんだから相手にされないよ。それにこの歳になると誘ってくれる奴もいなくなるんだ」

課長は気さくだし、人当たりもいいけれど飲み会には行かないからみんなも誘わなくなってしまったんだと思う。みんなと行きたいのならすぐに誘われると思うんだけどな。

「阿部さんとならみんなご一緒したいに決まってるじゃないですか。私ならいつだってそう思ってますよ」

つい本音が漏れてしまうが酔った私は気がつかない。
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