御曹司の溺愛から逃げられません
会場となるホテルまで15分くらいだと思う。
けれど私にはその時間が永遠のようにとても長く感じた。
ピッタリと寄り添うように座り、彼に指を絡められる。手の甲は指先でなぞられドキドキが止まらない。胸が苦しくなる。
言葉はなくても彼の肌や体温、匂いを感じる。五感が彼の隣にいた自分を呼び起こさせる。

滑り込むようにホテルの入り口へ車がつけられた。
ボーイが素早くドアを開けてくれると私たちは車から降りた。

そのままホールへ案内されるが、私たちの手はつながったまま。
多くの人が私たちを見て何かを口にしてる。
一段と素敵に仕上がった彼の隣にいる私が彼の足を引っ張るわけにはいかない。
秘書としての隣に立たなければ、と私は何度も手を離そうとするが、すればするほど彼の拘束は強くなった。
離してくれない彼を見上げると、ふと目があった。彼の目は熱く私のことを見つめていた。そして強く頷いていた。

「西園寺社長! ここにいらっしゃいましたか。本日はお越しいただきましてありがとうございます」

「お招きいただきましてありがとうございます。創立50年、おめでとうございます」

相手を見ると、橘建設の社長だった。世代交代したばかりで社長よりも少し上に見えたが、資料によるとかなりのやり手だとあったはず。秘書と手を繋いでいる社長が何て思われるか心配になるが一向に離す気配はない。
私が動揺していると、橘社長から声がかけられた。

「西園寺社長のお隣は……」

「あぁ。私が目下口説いている途中なんです。なかなか落ちてくれないんですよ」

「西園寺社長ほどの方でも落ちないなんて相当手強いですね。でもこんなに綺麗な人だから頑張らないといけないですね」

同年代の気さくさなのか私を見てそんなことを言う。

「ええ。なんとか頷いてもらいたいところです。彼女が私の最後の人になって欲しいんです」

そんなことを言う社長に焦ってしまうが、橘社長はからかう訳でもなく大きく頷いていた。

「私にもそんな人がいるんですよ。私も頑張らないと、となんだか勇気つけられました」

橘社長はそんな言葉を残し離れていった。
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