御曹司の溺愛から逃げられません
「社長! 揶揄うのはやめてください。私はあなたの隣に立てるような人間ではないとお伝えしました。今日も秘書として同行しています」

小さな声で必死に伝えるが、彼は私の顔を見つめ微笑んでいた。

「香澄、俺も言った。諦めないって。君を振り向かせるために努力する。追いかけるって」

熱い視線に鼓動は速いまま。
どうして彼はここまで私を好いてくれるのだろう。そんなにも求めてもらえるような人間ではなく、地味で平凡な人間なのに。

「香澄。今までのように名前で呼んでくれないか? 社長と言われるたび、君が俺の手から離れていったのを突きつけられ苦しいんだ。こんなことなら社長を弟に譲ればよかった」

「そんな……」

「俺にとって香澄は特別なんだ。支店で見つけてからずっと目で追いかけてた」

そこまで言うと知り合いに会ってしまい会話が中断した。
周囲の人からの、私たちの関係を探るような視線を感じるが彼は堂々と手を繋いだままだった。
どうしたらいいのかわからず、私はただただ彼に手を引かれ作り笑いを浮かべていた。
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