御曹司の溺愛から逃げられません
「やっぱり香澄は香澄だな。安心するよ」

「え?」

ふと我にかえると社長は私の知っている顔で笑っていた。

「やっと俺の知ってる香澄の顔に戻ったな」

私を見る彼の顔はなんだかとても甘い。彼に見つめられるだけで蕩けてしまいそう。
小さなテーブルにふたり、膝がぶつかり合うように座ると、わざとなのかさらに私に密着してきて私の背中に手を回してきた。

「香澄。俺は社長になっても何も変わらない。香澄のことが好きなただの男だ。だからまた名前で呼んでくれないか?」

先ほど話の途中で人が入ってきてしまったが、改めて名前を呼ぶように言われた。
彼のせつなそうな瞳に心が揺れ動く。

「瑛太さん……」

「香澄」

背中に回されていた手が私の頭を抱え込み、気がつくと抱きしめられていた。頭上から響く彼の声に胸が苦しくなった。

「愛してる」

その声に反応したように目に涙が溢れてきた。今まで我慢していたタガが外れてしまった。

「う……うう……瑛太さん」

彼のジャケットを握りしめると彼にもたれかかる。私を抱きしめる彼の腕の力がまた少し強くなった。

「愛してる」

何度も聞こえてくる彼の声が私の胸に響いてきた。
涙がこぼれ落ち、彼のシャツを濡らしてしまう。慌てて彼から少し離れようとするが、彼の抱きしめる力は緩まない。

「瑛太さんを濡らしちゃう」

小さな声で伝えるが、彼は離してくれない。

「ようやく腕の中に戻ってきてくれたんだ。そんなことくらいでは離してあげられない」

私を惑わす彼の声に喉の奥が締め付けられた。
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