御曹司の溺愛から逃げられません
課長は私がトイレに行っている間に会計を済ませてくれ、スマートに店を出た。

「家は立川だったよな？」

「はい」

そう答えると課長は通りに出るとタクシーを停めた。
私を先に乗せると、あとから自分も乗り込み、運転手に行き先を立川と伝えていた。

「待ってください。遠いので電車で帰りますから」

「もう遅いし、遠いからタクシーに乗るんだろう？」

え？
そう思っていたら「お願いします」と運転手に声をかけてしまっていた。

立川まで来ると家の詳細を伝えるよう言われ、運転手に住所を告げた。
本当なら満員電車に揺られ、くたくたになって帰ってくるはずが楽しくお酒を飲んだ挙句タクシーで家に帰れるなんて天国のよう。

「あ、ここです」

私が声をかけるとハザードが付きすっと路肩に車が寄せられた。

「ありがとうございました」

私が頭を下げると、さっとまた頭に手を置かれ「また明日な」といいそのまま走って行ってしまった。
私はここでもこの言葉を聞き逃してしまっていた。
< 9 / 101 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop