目の前の幸せから逃げないで
序章
「今日、辞表を出したわ。」
身支度をしている 清原さんの背中に 私は言った。
「えっ?」
清原さんは 驚いた顔で 振り向いた。
「嘘だろう?」
「本当よ。」
「辞めてどうするんだよ。」
「ネットショップを 起ち上げるつもり。子供服の。」
「何か 当てがあるの?」
「そんなの ないわ。」
「やめろよ。失敗したら どうするんだよ。」
「その時は その時よ。だから、清原さんと こうして会うのも 今日が最後よ。」
思っていたよりも ずっと平気な声で言えた。
「本気で言ってるの?」
「本気よ。」
「由紀乃…」
「今まで ありがとう。色々…」
私って 自分で思っていたよりも ずっと薄情で
切り替えが 早いのかもしれない。
5年も付き合ったのに。
何のためらいもなく 別れが言えた。
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