目の前の幸せから逃げないで
3
光毅との 仕事は 順調で、
むしろ 快適と 思えるほどだった。
光毅は 大学のある日も、
授業が終わると 事務所に来ていた。
私が 頼まなくても 改善点を見つけては 修正してくれる。
システムは、すっかり 光毅に 任せていた。
11月 最初の金曜日。
日が 短くなって、5時過ぎの外は 真っ暗だった。
自分の仕事が 一段落して 顔を上げた私。
向かい側の デスクで 指を動かしている 光毅を見る。
「どう?終わりそう?」
「はい…」
今日は 忙しかったから 私も光毅も 黙々と 仕事をしていた。
私は 先に立ち上がって、帰る用意を 始めた。
「あっ…」
パソコンを閉じて 立ち上がった光毅が
フラッと よろめいて 机に 手を付いた。
「ハタ君。どうしたの?」
私は 光毅の側に 駆け寄り 体を支える。
光毅は 小刻みに 震えていた。
「すみません…大丈夫です。」
「熱、あるんじゃない?体が 熱いよ。」
私は 光毅の額に 掌を当てる。
「すごい熱。ちょっと 座って。」
光毅を 椅子に座らせ 私は 光毅の上着を 取ってきた。
「どうして…?具合悪いのに 無理したの。」
光毅の体に ジャンパーを掛けて、私は聞く。
「大丈夫だと 思ったから。すみません。」
光毅は いつもより 大人しかったけど。
今日は 私も 忙しかったから。
光毅を 気にする余裕が なかった。
「ごめんね、無理させちゃって。とりあえず 私の部屋に 行こう。」
「いえ、帰ります。大丈夫です。」
「ハタ君の家、遠いじゃない。一人で 帰せないわ。それに 帰っても 一人でしょう?私の家、近いから。ウチで 休んで。」
光毅は それ以上 逆らう気力が ないようだった。
外に出て 私は フラつく光毅の 腕を取る。
「すみません、迷惑 かけて。」
「いいのよ、気にしないで。」
通りで 拾ったタクシーに 光毅を乗せ
私の マンションへ 向かう。
「私の部屋、すぐだから。ちょっとだけ 我慢してね。」
「大丈夫です。」
光毅は タクシーの中でも 俯いて グッタリしている。