目の前の幸せから逃げないで
事務所から マンションまで 歩いて 15分くらい。
いつもは 歩いて 通勤している私。
タクシーは あっと言う間に マンションに着く。
足取りが 重い光毅の腰を 私は 支えて歩く。
エレベーターの中でも 光毅は 辛そうな様子だった。
「ハタ君、こっちで 横になって。」
マンションに入って 光毅を 寝室に 連れて行くと
「俺、あっちで いいです。」
光毅は ベッドに 横になることを 遠慮した。
「駄目。ちゃんと 寝ないと 治らないから。」
ジャンパーを 脱がせると 光毅は ブルッと 震えた。
具合の悪さには 勝てずに ベッドに 腰掛ける光毅。
「薬持ってくるわね、その前に 何か食べた方がいいけど。食べられる?」
私が 聞くと 光毅は 首を振る。
「ちょっと 待っててね。」
光毅を 残して 私は 寝室を出た。
お粥を作る 時間は ないし。
エナジーゼリーの 買い置きもない。
仕方なく 私は 牛乳を 温めた。
市販の 風邪薬を探して 寝室に戻る。
光毅は さっきと同じ姿勢で ベッドの隅に 腰掛けていた。
「牛乳 飲める?」
頷く光毅に マグカップを渡す。
「甘い…」
光毅は 一口飲んで 私を見た。
「少し お砂糖 入れたの。」
「美味しいです。温かくて…」
「ゆっくり 飲んで。」
遠慮する 光毅を ベッドに寝かせ
私は そっと 寝室を出た。