目の前の幸せから逃げないで
私よりも 15才も年上の 清原さんは 家庭のある人だった。
俗にいう 不倫関係。
直属の上司だった 清原さんと私は
5年もの間 付き合っていた。
『由紀乃と いる時が 一番落ち着くよ』
『家内のことは もう何年も 抱いてない』
『子供のために 一緒にいるけど 家内に 愛情はないよ』
『子供が もう少し大きくなったら 離婚するつもりだ』
『家内と 結婚する前に 由紀乃に 出会いたかった』
清原さんが 私にくれた言葉は 不倫男性の 常套句。
若い私は その言葉に縋って 5年も 無駄にした。
全部 知っている 鈴香は
何度も 私を 止めたけど。
私は 清原さんを 疑うことが できなかった。
25才から 30才まで。
ただ 待つだけの 恋に 費やした私。
妹が 結婚して 子供を産んだ時に 私は ハッとした。
『私、こんなことを していたら 自分の子供なんて 産めない。』
清原さんには 家族が いるけれど。
私は いつか 一人ぼっちに なってしまう。
そう考えた時 私は 初めて 清原さんの狡さに 気付いた。
別れを 決めた私に
清原さんは
『すまなかった』
と寂しそうに 謝った。
本当は 最期の賭け だったのに。
もしかして 清原さんは 家族よりも 私を 選んでくれるかも。
でも期待は 簡単に 砕かれる。
やっぱり 清原さんにとって
私とのことは ただの 遊びだった。