目の前の幸せから逃げないで
4

翌朝、

窓から 差し込む陽ざしで 目を覚ました私。

ソファで 眠るなんて、初めてだけど。

案外、ぐっすり 眠れて 苦笑する。


7時少し前 だったけど 私は 起き上った。

顔を洗って、お粥を作る。


昨夜洗った 光毅の服は 乾燥まで 終わっていた。

洗濯機から 取り出して 丁寧に畳む。

コーヒーを 飲む前に 光毅の様子を見ておこう。

静かに 寝室に入ると 光毅は まだ眠っていた。


ベッドの脇に 膝立ちをして 光毅の額に 手を当てる。

『うん、熱はないね』

ヒヤッとする おでこに 安心して 光毅の寝顔を 見る。


まだ 21才の光毅は 眠っていると あどけなくて。

キメの細かい肌は スベスベで。


『若いなぁ』


感心していると、突然 光毅が 目を開いた。


「あっ。熱、下がったみたいね。」

私は 慌てて 光毅から 手を離そうとしたけど。

一瞬早く 光毅が 私の腕を 掴んだ。

「んっ。」


突然で バランスを崩した私は

光毅の上に 倒れ込んでしまう。


光毅は 私の頭を 抱き締めた。


少しの間 光毅に 頭を抱かれて。

私が 光毅から 離れようとすると、

光毅は 私の頭を押さえて キスをした。


ハッとして 私が 唇を離すと 

光毅は もう一度 唇を重ねる。


二度目のキスは 乱暴で せっかちで。

私は その若さに 胸が 熱くなってしまう。


「病人のくせに。駄目よ。」

やっと 唇を離した光毅に 私は言う。


言ってから、失敗したと 思ったけど。


まるで、病人じゃないなら いいと 言っているみたいで。

「もう 治ったから。由紀乃さんの おかげで。」


光毅は 私に 顔を寄せたまま 答えた。


昨日まで 三島さんと 呼んでいたのに。

キスをした途端に 由紀乃さんと呼ぶ 光毅。


そんな単純な 光毅の若さが 苦しいくらい 私の胸を 震わせる。

「由紀乃さん…いい匂い。昨夜、ずっと 由紀乃さんの匂いが していたから。よく眠れたんだ。」

光毅は 私の頭に 唇を這わせる。


「お腹 空いたでしょう?朝ご飯 食べて。」


光毅を 許してしまいそうな自分が 怖くて。

私は 何もなかったような顔で 立ち上がった。








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