目の前の幸せから逃げないで
シャワーを 浴びた後も 光毅は
昨夜と同じ 私が買った スウエットを着て リビングに 戻って来た。
さっぱりとした顔で ソファに 腰掛ける光毅。
「着替えなかったの?」
「ううん。下着は 替えたよ。こっちの方が 楽だから。」
「そう。よかったわ。もう少し、寝た方が いいわよ。」
若い光毅が 眩しくて 私は フッと息を吐く。
「大丈夫。俺、由紀乃さんの 匂いがする。」
光毅は 自分の頭を振って 笑顔で 私を見る。
「フッ。同じシャンプーで 洗ったんだもの。ほら、ベッドで寝て。また 熱が上がるよ。」
「じゃ、ここで 寝る。ここなら、由紀乃さんが 見えるから。」
昨夜の 私みたいに 光毅は ソファに 横になった。
「もう。仕方ないわね。」
呆れた声で 言いながら 私は 光毅に 毛布を掛けた。
私を 目で追っていた 光毅だけど。
薬が 効いてきたのか まだ完全に 回復していないのか。
いつの間にか、光毅は 静かに 寝息を立てていた。
『困った子ね』
ダイニングから 光毅の姿を 見る私。
キスを 拒まなかった私も いけないけど。
まるで 恋人のような目で 私を 見られても 困る。
私は 光毅の恋人には なれない。
12才も 年下の 大学生なんて。
私にとって 光毅は ただの バイトの子 だったのに。
切ない瞳を 向けられると 絆されて しまいそうになる。
眩しいほどの 若さと 真っ直ぐな言葉に 惑わされてしまう。
もう、苦しい恋は したくないのに。