目の前の幸せから逃げないで
「んっ?俺、もう 就職決まっているよ。」
「えーっ?そうなの?どこの会社?」
驚きと落胆で 私の声は 少し震えていた。
「SNOW BELL…」
「はぁ?なに言ってるの?」
「俺、このまま SNOW BELLに就職する。いいでしょう?」
「駄目よ。ウチなんか 何の保障もない会社なのよ。」
「そんなの、どこでも 同じだよ。大手企業が 倒産する時代だよ。」
「だからって…ウチなんか。みつきの能力、活かせないわ。」
「もし、俺に 能力があるとすれば。由紀乃さんと 一緒だから 最大限に 発揮できているんだよ。」
「そんなこと 言わないで。みつきには もっと 相応しい所があるわ。」
「どうして?由紀乃さんは 俺と一緒に 仕事するのが 嫌なの?」
「そうじゃないわ。そうじゃないけど。みつきの将来を 駄目にしたくないのよ。」
「だから、ダメになんて ならないって。」
「みつきは、いつまでも 私の側にいたら いけないのよ。」
「やっぱり俺 由紀乃さんとは 釣り合わないもんね。由紀乃さんには、もっと優秀で 頼りになる大人の人が 似合うから。」
普段は あまり 感情的にならない光毅が、
顔を赤くして 声を荒げて言う。
怒りをぶつける 光毅の瞳が 切なくて。
光毅の 真っ直ぐな心が 眩しくて。
気付いたら 私は 涙が溢れていた。
「ごめん、由紀乃さん。泣かないで。俺、由紀乃さんを 泣かせるつもりなんて ないのに。」
「ううん…私こそ ごめん。大人なのに 泣いたりして。」
私は 心を押さえて そう言った。
「俺が 悪かったから。もう泣かないで。」
私の肩に 手を乗せて 光毅は心配そうに 私を見つめる。
私は そっとおでこを 光毅の肩に ぶつけて。
もう 光毅と 離れることなんて できないと 私は やっと気づいた。