目の前の幸せから逃げないで
光毅との時間は とても幸せだから。
今の関係を 壊したくなくて。
お互いに 何も縛られなくても
一緒にいられるだけ 一緒にいればいい。
光毅を 社員にすると決めた時 私は そう心に誓っていたから。
私は数日、胃の調子が 良くない日が 続いていた。
秋から ずっと忙しかったから 疲れが出たのか。
事務所で 薬箱を開いて 中を探っていると
「どうしたの、由紀乃。具合でも 悪いの?」
鈴香は 心配そうに 私に声を掛けた。
「うん…ちょっと 胃がもたれて。胃薬の買い置き 無かったかしら?」
鈴香の言葉で 立ち上がった光毅。
一瞬、鈴香と光毅が 顔を見合わせた。
「んっ?なに?」
「ううん。そうだ、私 薬持ってるかも。ちょっと待って。」
鈴香は そう言うと 机の引き出しを開いて 中を探った。
「あっ。あった。これ、由紀乃 使って。」
そう言って 鈴香が 私に 手渡したのは 妊娠検査薬。
「ちょっと。これ、何のまねよ。」
呆れた顔で 鈴香を見たけど。
私は 生理が遅れていることに 気付いて ハッとした。
「いいから。使ってみてよ。」
「だから…どうして 鈴香が 私に こんなもの 渡すのよ。」
「だって 私が ハタ君に アドバイスしたんだもん。由紀乃が どうしても 結婚を オッケーしてくれないって。ハタ君 落ち込んでいたから。既成事実を作っちゃえばって。」
「みつき…?」
「いいでしょう。俺、由紀乃さんとの 赤ちゃん 欲しいし。ねぇ、ちょっと それ やってみてよ。」
「いやよ、こんな所で。」
「由紀乃。この仕事 続ける上で 自分の子供がいると ずっとプラスになるわ。私も 紗良を産んで すごく思うもの。大丈夫だから。私も ハタ君もいるし。安心して 子供産みなよ。」
「だから。どうして、そうなるのよ。」
「由紀乃、ハタ君より年上だからって 結婚 諦めているかもしれないけど。出産には タイムリミットが あるんだからね。ハタ君のこと 信じてみたら?」
「信じているわよ?でも…」
「まずは 事実確認が先。早く 調べてみてよ。」
私は 鈴香に押されて トイレに閉じ込められた。