目の前の幸せから逃げないで

「由紀乃、私 結婚しても いい?」

鈴香が私に そう聞いたのは 

二度目の決算が 終わった後だった。


「もちろん、いいわよ。何で 私に聞くのよ。私が反対したら 結婚 辞めるの?」

鈴香は 大学生の頃から 付き合っている 恋人がいた。


「そういう訳じゃ ないけど。仕事に 支障がでるかも しれないから。」

何となく 歯切れの悪い 鈴香。


「結婚しても 仕事は 続けてくれるんでしょう?」

「そりゃそうよ。ただ…休むことも 増えるから。」

「新婚旅行とか?いいわよ。ゆっくり 行って来てよ。そのくらい 私、頑張るから。」

「旅行は 行かないつもり…今は。式も しないし。」

「えーっ。やった方が いいよ?一生に 一度じゃない。」

「そのうち 写真だけは 撮ろうかって 言っているんだけど…」

「そのうち…?」


「もう。由紀乃、鈍いなぁ。安定期に入ったら。ごめん、私 妊娠したの。」

「やだー。鈴香、それを 早く言ってよ。おめでとう。よかったじゃない。」


毎日 鈴香と 一緒に 仕事をしているのに。

私は 鈴香の変化に 全く 気付かなかった。


「急でごめん。で、だから。出産とか…長く 休むことに なると思うの。」

「いいわよ。それまでに 代わりの人を 採用しようよ。」

「見つかるかな?」

「大丈夫でしょう。まだ 日にちが あるから。」

のんきに 構えていた 私達は

ギリギリまで スタッフの募集を しなかった。







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