スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
tow-faced
 空は雲一つない快晴。地上三十階のオフィスからは、真っ赤な東京タワーを起点として都会の街並みが広がっている。眺めは最高だが、働いている人間からすればいちいち景色を気に留めている余裕はないものだ。

 今年で入社六年目を迎える柏野有紗(かしわの ありさ)にとっては尚更で、特に今日はすっきりとした秋晴れが恨めしいほど心に靄がかかっていた。

「……悔しい」
 
 騒がしいオフィスの中。誰にも聞こえないように、独りごちて唇を噛みしめた。それはもう、昼食後に塗り直した口紅が剥げてしまうほどに。

 ここはとあるインターネット広告代理店グローバル部門デジタルマーケティング事業部。有紗の主な仕事はクライアントへの営業として、日系企業の海外進出に際したマーケティングサポートを担っている。

 昔からプライドが人一倍高い有紗は、常にトップでいたいという意識が強く、入社後も仕事に全力投球してきた。

 そのおかげで営業成績は同期の中でもトップ。社内での評価も高く、最速でチームリーダーを任されるほどの実力がある。先輩には期待され、同期や後輩には羨望の眼差しを向けられる――そんな最高のポジションを揺るがせたのは、ある男のせいだった。

「有紗、顔怖いよ~?」

 調子の良い声で近寄ってきたのは、有紗の同期の峠(とうげ)ゆかり。ゆかりは人事部の配属なので職種自体は違うものの、就職活動時に知り合って以来意気投合し、プライベートでも仲が良い。

 気心知れた同期の登場で、有紗はさらに顔をしかめた。

「ほら、まーた変顔して。美人が台無し!」

< 1 / 38 >

この作品をシェア

pagetop