スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
(帰国してるなんて知らなかったな……。でもまあ、サンフランシスコ支社からヘルプなんて、ありがたいことだよね。このプロジェクト絶対成功させたいし)

 有紗は仕事に私情を持ち込むことが一番嫌いだ。気持ちを切り替えると、会議の出席者の名前を羽鳥に書き換えた。



 会議の開始時刻になり有紗が出席を確認する。最後に書き換えた羽鳥の名前を呼ぼうとして、会議室のドアがガチャリと開いた。

「ギリギリセーフ!」

 飛び込んできたのは、ゆるりとパーマをあてたダークブラウンの髪が特徴的な、十人中十人が認める犬顔イケメン。身長こそさほど高くはないが、高圧的な印象を与えない適度な高さで周りの人間からも親しまれやすい。

 緊張した空気が一瞬で和むのを感じ、有紗は口を開いた。

「全然セーフじゃないです。一分、過ぎてますよ」
「あはは、相変わらず厳しいな~柏野さんは」
「羽鳥くんこそ、相変わらずで」

 三年ぶりだというのに変わらず軽口を叩き合える関係性に、有紗は安堵した。

 大樹は昔から同期の中でもムードメーカー的立ち位置で、初対面の相手でもすぐに溶け込むことができる。

 常に競争心むき出しで、気の強い印象を与えやすい有紗の誤解を大樹が解く形で、二人の相性は意外にも良く、当時は同期の中でもお似合いのカップルとされていた。

「それじゃあ皆さん揃いましたので、概要を説明する前に軽く自己紹介をしましょうか」

 自己紹介を始めると、再びピリッとした空気に包まれる。その間も大樹からはにこにこと柔和な笑みを向けられていて、有紗は珍しく調子が狂うのを感じた。


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