スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜


 一時間程度の会議を終えたあと、会議室に残っていると大樹が声をかけてくる。

「ファシリお疲れ。それから、久しぶり」
「本当にね。帰国するなんて知らなかったから驚いたよ。一時帰国っていつまで?」
「ごめんごめん、急に決まったからさ。一応二週間はこっちいるよ」

 大樹の一時帰国が決まったのは先週のことで、日本にいる間は会社が借りているマンションに滞在するらしい。プロジェクトに参加するのならば長期滞在を見込んでいたため、有紗は首を傾げた。

「てことは、クリエイティブの担当もまた変更になるの?」
「いや、最後まで俺が担当するよ」
「じゃあ、残りはオンラインでのやりとりになるんだ」
「え? ああ、まあそんなとこ」

 やや歯切れの悪い返事のあとで、大樹は話を切り替えるように声を上げる。

「そうだ。有紗頑張ってるんだって? こっちでも噂たまに聞くけど」
「大樹こそ。聞いたよ、Y社ブランドの広告。あれ担当したの大樹なんでしょ」
「へへ、まあな~」

 有紗に褒められたことで、大樹は得意げに胸を張った。

 一応別れたこともあって、この三年間は互いに連絡は取っていない。しかしながら共通の同期から、それぞれの活躍が耳に入って来ていた。元恋人が活躍していることはなんだか嬉しいものだ。

「せっかく帰国したんだし久々に飲み行かね?」
「えっ……」

(飲みに行くって……二人で? 積もる話はあるだろうけど、さすがにそれは――)

「ひさびさに同期会したいし。まだ残ってるやつら集めてさ、来週辺りどう?」
「あ、ああ、そうだね。いいんじゃない」
「よし! じゃ、あとでグループチャット飛ばす!」
< 11 / 38 >

この作品をシェア

pagetop